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ここ数年、日本の製造業は大きな試練にさらされています。
鋼材価格は高騰を続け、人件費も右肩上がり。
その一方で、製品価格を自由に上げることは難しく、
収益構造が厳しくなっている企業が少なくありません。
特に、グローバル市場で中韓勢との競争が激化する中、
価格面での優位性を失った日本企業が苦戦を強いられています。
造船業界においては、中国が世界シェアの約50%、韓国が約30%を占める中、
日本は10%程度まで低下しており、この状況は深刻です。
こうした環境下で注目されているのが、広島県福山市の常石造船です。
同社は1994年にフィリピン・セブ島、2003年に中国・舟山市へと
早期から海外展開で成功を収めてきましたが、
2024年、新たに「東ティモール」への進出を発表しました。
年間10隻規模を建造できる体制を構築するという、
大胆かつ戦略的な一手です。同国初の本格的な造船所となります。
東ティモールは、2002年に独立したアジアで最も若い国の一つです。
人口約140万人と小規模ながら、平均年齢が若く、今後の人口増加が見込まれています。
常石造船が東ティモールを選んだ理由:
これまで造船業の土壌がなかった地域に
一からドックをつくるという試みは、
企業としての技術力と成長力を示すチャレンジとも言えます。
海外に拠点を構える最大のメリットは、労働コストだけではありません。
造船コストの約3割を占める鋼材についても、
日本製は海外比で1~2割高いとされています。
常石造船は従来、中国材の調達も検討してきましたが、
輸送コストの問題がありました。しかし最近では、
インドネシアなど東南アジアの鋼材調達網を再編することで、
さらなるコスト削減を実現しています。
このように、労働力と資材の両面から
トータルでの建造コストを大きく下げることが可能になります。
常石造船のように、国内の高コスト構造から脱却し、
価格競争力を高めるための海外展開は、
今後さらに重要な経営手段となっていくでしょう。
常石造船は、国内の常石工場を”マザー工場”として位置づけています。
ここでは、新技術の研究・開発や設計機能を担い、
海外拠点とは明確に異なる役割を持たせています。
国内工場の高度化事例:
品質の「司令塔」としての役割が強化されており、
海外拠点への技術移転の中核となっています。
海外拠点で建造しても、日本品質を守ることができるのか?
常石造船はこの課題に、明確な答えを持っています。
品質維持の仕組み:
フィリピン、中国の海外拠点では、
現地で設計技術者を確保できており、
国内外合わせて1000人を超える技術者体制を構築しています。
価格だけでなく、品質でも選ばれる船をつくる。
これが、常石造船の競争力の源泉です。
2025年12月、日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社が、
三菱重工業と今治造船が共同で設立した次世代船設計会社「MILES(マイルズ)」に
資本参加すると発表しました。業界全体が連携を深める動きが加速しています。
しかし、常石造船はMILESには加わっていません。
その代わりに、独自の連携戦略を展開しています:
この「選択と集中」こそが、
常石造船独自のエコシステム構築を支えています。
業界の大きな流れに乗るのではなく、
自社の強みを活かせる連携だけを選ぶという明確な方針です。
この常石造船の戦略は、決して大企業だけのものではありません。
むしろ中小企業こそ学ぶべきヒントが詰まっています。
中小企業への応用例:
特に、常石造船と尾道造船の共同開発事例は、
競合同士でも協力できる部分は協力し、
個々の強みは活かすという、中小企業にも参考になるモデルです。
業界の流れに乗ることが悪いわけではありません。
しかし、それが自社の強みを殺すようであれば、本末転倒です。
常石造船が示す経営のヒント:
必要なのは、他社と違う道を行く勇気と、
自社のリソースや特性にあわせた最適な戦略です。
それが、結果として”選ばれる会社”への道につながります。
常石造船のように、価格競争力を確保しながらも、
「日本品質」を提供する体制を維持していくこと。
これは、今の時代における理想的な経営のあり方ではないでしょうか。
常石造船の戦略をまとめると:
中小企業にとっても、柔軟な判断とスピード感のある行動が、
この不透明な時代を生き抜くカギとなります。
“価格ではなく価値で勝負する”。
その視点が、今後の経営判断を左右していくはずです。
【参考情報源】
中小企業診断士として、現場で数多くの経営者と向き合うなかで、
常石造船の事例は非常に示唆に富んでいると感じました。
特に注目すべきは、「業界の大きな流れに必ずしも乗らない」という選択です。
今治造船グループによる業界再編が進む中、
常石造船は独自の道を歩んでいます。
これは、中小企業にとっても重要な示唆です。
自社の強みと市場ポジションを冷静に分析し、
「戦うべき土俵」を自ら選ぶ。
そして、選んだ土俵では徹底的に価値を磨く。
この姿勢こそが、これからの時代を生き抜く企業に求められるのではないでしょうか。