お問い合わせ
CONTACT
※事務所不在の時もありますので、なるべくお問い合わせフォームからのご連絡をお願いします。

「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」──2025年の流行語大賞に選ばれたこの言葉は、同年10月に日本初の女性首相として誕生した高市早苗首相が、自民党総裁就任直後に発したものです。
背景にあるのは、日本の生産年齢人口の減少や生産性の低下といった深刻な経済的課題です。首相が提唱する「労働時間の規制緩和」は、単に長時間労働を奨励するものではなく、「供給力の強化」という日本経済の構造的課題に対する現実的な問題提起でもあります。
では今、私たち企業経営者や人事担当者は、どのような働き方を模索すべきなのでしょうか?
中小企業の視点から、これからの人事制度のあり方を一緒に考えてみましょう。
まず、データで現状を確認してみましょう。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、1990年の月平均労働時間は172時間でした。それが2024年には136.9時間にまで減少しています。年間で換算すると、実に2割以上の短縮となります。
この大幅な減少の主な要因は、雇用形態の変化です。正社員からパートタイム労働者への置き換えが進み、1990年に約12%だったパート比率は、2024年には30%以上に上昇しています。
さらに、2019年に施行された「働き方改革関連法」により、残業時間に法的な上限(原則月45時間、年360時間)が設けられたことも、労働時間の減少に拍車をかけました。
理想的には、働く時間が短くなっても効率的に成果を上げられれば問題ありません。しかし、日本の現実は厳しいものがあります。
OECD(経済協力開発機構)の「労働生産性の国際比較」によると、日本の時間あたり労働生産性は主要7カ国(G7)中で最下位となっています。OECD加盟国38カ国中でも、アメリカが第4位であるのに対し、日本は28位という結果です。
つまり、労働時間を削減したものの、それに見合う生産性の向上が実現できていないのが実態です。これでは、企業の業績にも日本経済全体にも悪影響が出てしまいます。
この問題は、マクロ経済指標にも如実に表れています。
法政大学の小黒一正教授の試算によると、もし労働時間が1990年水準で維持されていれば、1人あたり実質GDPは2023年に「1.68倍」に成長していた可能性があるとのことです。
しかし実際は1.3倍にとどまり、同期間に2.05倍となったアメリカに大きく水をあけられました。
この数字が意味するのは、生産性の向上を伴わない労働時間の削減が、結果として日本の経済力の相対的な低下を招いたということです。
とはいえ、過去の日本には確かに「働かせすぎ」という問題がありました。
過労死、サービス残業、いわゆる「ブラック企業」といった深刻な社会問題が顕在化し、労働者の健康と生活の質が脅かされていました。こうした状況を改善するため、2019年に「働き方改革関連法」が施行され、残業時間に法的な上限が設けられました。
中小企業にとっては生産体制の見直しや人員配置の調整といった対応が必要となりましたが、労働者の立場から見れば、健康で安心して働ける制度が整ったことは大きな前進といえます。
問題は、このバランスをどう取っていくかです。
労働時間を単純に元に戻すわけにはいかない中で、企業が真剣に取り組むべきは「人が辞めない職場、選ばれる職場づくり」です。
具体的には、以下のような施策が効果的です。
こうした取り組みは、給与や待遇の向上以上に、働き手の満足度や定着率に直結します。特に若い世代においては、「働き方の柔軟性」が企業選択の重要な基準となっています。
年功序列や勤続年数ではなく、「どんな仕事を担当し、どのような成果を出したか」に着目する”ジョブ型”人事制度が、日本企業にも徐々に浸透しています。
中小企業でも、以下のような取り組みから始めることができます。
これらを通じて、評価の透明性と納得感を高めることができ、従業員のモチベーション向上につながります。
少人数での運営が前提となる中小企業では、テクノロジーを活用した業務効率化も欠かせません。
近年注目されているツールには、以下のようなものがあります。
重要なのは、これらのツールを導入することで、人が本来集中すべき「価値を生む仕事」──顧客との対話、創造的な企画、戦略的な意思決定──にシフトさせることです。
これこそが、これからの「賢い働き方」の本質といえるでしょう。
「労働時間の規制緩和」が議論される今だからこそ、経営者として意識したいのは、単に「時間を伸ばす」のではなく、「時間の中身をいかに豊かにするか」という視点です。
法律を遵守することは当然ですが、それだけでは人は定着しません。
制度を導入することも大切ですが、それをどう運用するか、従業員一人ひとりとどう向き合うか──そこにこそ、企業の本質が表れます。
人手不足が深刻化する中、「この会社で働きたい」「この会社で成長したい」と思ってもらえる組織づくりが、何よりも重要です。
人事制度や働き方の見直しは、一朝一夕にできるものではありません。しかし、小さな一歩から始めることで、確実に職場環境は変わっていきます。
もし人事制度の設計や労務管理にお悩みでしたら、現場の実情を理解し、実践的なアドバイスができる社会保険労務士にご相談ください。