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価格競争を勝ち抜く!常石造船のグローバル戦略と中小企業のヒント

目次

目次

  1. 日本の製造業が直面する「価格競争」の現実
  2. 常石造船の打ち出した”生き残り戦略”とは
  3. なぜ”東ティモール”なのか?
  4. 海外展開で得られる「価格競争力」
  5. 国内は”高付加価値”拠点として活用
  6. “海外建造でも日本品質”を実現する体制
  7. 他社との連携と”独自路線”の使い分け
  8. 中小企業にも通じる「現地化」の発想
  9. キーワードは「自社に合った生き残り方」
  10. まとめ:価格ではなく「価値」で勝負する時代に

1. 日本の製造業が直面する「価格競争」の現実

ここ数年、日本の製造業は大きな試練にさらされています。
鋼材価格は高騰を続け、人件費も右肩上がり。
その一方で、製品価格を自由に上げることは難しく、
収益構造が厳しくなっている企業が少なくありません。

特に、グローバル市場で中韓勢との競争が激化する中、
価格面での優位性を失った日本企業が苦戦を強いられています。
造船業界においては、中国が世界シェアの約50%、韓国が約30%を占める中、
日本は10%程度まで低下しており、この状況は深刻です。


2. 常石造船の打ち出した”生き残り戦略”とは

こうした環境下で注目されているのが、広島県福山市の常石造船です。
同社は1994年にフィリピン・セブ島、2003年に中国・舟山市へと
早期から海外展開で成功を収めてきましたが、
2024年、新たに「東ティモール」への進出を発表しました。

年間10隻規模を建造できる体制を構築するという、
大胆かつ戦略的な一手です。同国初の本格的な造船所となります。


3. なぜ”東ティモール”なのか?

東ティモールは、2002年に独立したアジアで最も若い国の一つです。
人口約140万人と小規模ながら、平均年齢が若く、今後の人口増加が見込まれています。

常石造船が東ティモールを選んだ理由:

  • 労働コストが低い(フィリピンや中国と比較しても優位性あり)
  • 真面目で穏やかな国民性が造船業の現場作業に適している
  • 2024年にASEAN(東南アジア諸国連合)への加盟が決定し、今後の経済成長が期待される
  • 造船業の競合がまだおらず、一から技術を定着させられる

これまで造船業の土壌がなかった地域に
一からドックをつくるという試みは、
企業としての技術力と成長力を示すチャレンジとも言えます。


4. 海外展開で得られる「価格競争力」

海外に拠点を構える最大のメリットは、労働コストだけではありません。
造船コストの約3割を占める鋼材についても、
日本製は海外比で1~2割高いとされています。

常石造船は従来、中国材の調達も検討してきましたが、
輸送コストの問題がありました。しかし最近では、
インドネシアなど東南アジアの鋼材調達網を再編することで、
さらなるコスト削減を実現しています。

このように、労働力と資材の両面から
トータルでの建造コストを大きく下げることが可能になります。
常石造船のように、国内の高コスト構造から脱却し、
価格競争力を高めるための海外展開は、
今後さらに重要な経営手段となっていくでしょう。


5. 国内は”高付加価値”拠点として活用

常石造船は、国内の常石工場を”マザー工場”として位置づけています。
ここでは、新技術の研究・開発や設計機能を担い、
海外拠点とは明確に異なる役割を持たせています。

国内工場の高度化事例:

  • 3D技術の活用 – 鋼材の曲げ具合を3次元で判定し、加工精度を向上
  • RFIDタグによる部品管理 – 艤装品をQRコード/RFIDで管理し、出庫管理や進捗管理をデジタル化
  • 次世代船の開発拠点 – 環境対応船やアンモニア燃料船など、技術革新の最前線を担う
  • 客船建造への展開 – 2030年頃をめどに客船建造への進出も視野に入れ、ドック改造を計画中

品質の「司令塔」としての役割が強化されており、
海外拠点への技術移転の中核となっています。


6. “海外建造でも日本品質”を実現する体制

海外拠点で建造しても、日本品質を守ることができるのか?
常石造船はこの課題に、明確な答えを持っています。

品質維持の仕組み:

  • 国内で育成した技術者を海外に派遣し、現地で技術指導
  • 現地人材を日本で教育・研修させることで、ノウハウと価値観を浸透
  • 常石工場で開発した3DシステムやRFID管理を中国工場などにも展開
  • 設計機能は国内に集約し、品質基準の統一を徹底

フィリピン、中国の海外拠点では、
現地で設計技術者を確保できており、
国内外合わせて1000人を超える技術者体制を構築しています。

価格だけでなく、品質でも選ばれる船をつくる。
これが、常石造船の競争力の源泉です。


7. 他社との連携と”独自路線”の使い分け

2025年12月、日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社が、
三菱重工業と今治造船が共同で設立した次世代船設計会社「MILES(マイルズ)」に
資本参加すると発表しました。業界全体が連携を深める動きが加速しています。

しかし、常石造船はMILESには加わっていません。

その代わりに、独自の連携戦略を展開しています:

  • 尾道造船との共同開発 – 2025年3月、4万2200トン型ばら積み船「Bingo42」を共同開発。資本関係のない造船会社同士の一般商船共同開発は国内で珍しいケース
  • 船舶仲介会社への出資 – 営業力の強化と市場情報の収集
  • 三井E&S造船の完全子会社化 – 2023年に資本提携、2025年に完全子会社化し「常石ソリューションズ東京ベイ」として統合

この「選択と集中」こそが、
常石造船独自のエコシステム構築を支えています。
業界の大きな流れに乗るのではなく、
自社の強みを活かせる連携だけを選ぶという明確な方針です。


8. 中小企業にも通じる「現地化」の発想

この常石造船の戦略は、決して大企業だけのものではありません。
むしろ中小企業こそ学ぶべきヒントが詰まっています。

中小企業への応用例:

  • コスト構造が厳しい中で自社ですべてを抱えるのではなく、一部業務を海外に委託する
  • 設計・企画は国内で担い、製造は海外という分業体制を構築する
  • 技術力が必要な部分は国内に残し、労働集約的な工程を海外に移管する
  • 1社では難しい場合、同業他社と共同開発や共同調達で対応する

特に、常石造船と尾道造船の共同開発事例は、
競合同士でも協力できる部分は協力し、
個々の強みは活かすという、中小企業にも参考になるモデルです。


9. キーワードは「自社に合った生き残り方」

業界の流れに乗ることが悪いわけではありません。
しかし、それが自社の強みを殺すようであれば、本末転倒です。

常石造船が示す経営のヒント:

  • 業界の大型連携に参加しないという「選ばない勇気」
  • 海外展開を急ぐ一方で、国内工場の高付加価値化に投資
  • 競合との部分的な協業と、独自路線の両立
  • 技術者育成への継続的な投資

必要なのは、他社と違う道を行く勇気と、
自社のリソースや特性にあわせた最適な戦略です。

それが、結果として”選ばれる会社”への道につながります。


10. まとめ:価格ではなく「価値」で勝負する時代に

常石造船のように、価格競争力を確保しながらも、
「日本品質」を提供する体制を維持していくこと

これは、今の時代における理想的な経営のあり方ではないでしょうか。

常石造船の戦略をまとめると:

  1. 海外展開によるコスト競争力の確保(フィリピン、中国、東ティモール)
  2. 国内工場の高付加価値化(マザー工場として技術開発・品質管理の中核)
  3. 品質維持のための人材育成(現地人材の日本研修、日本人技術者の海外派遣)
  4. 選択的な業界連携(MILES不参加、尾道造船との共同開発)
  5. デジタル技術の積極活用(3D、RFID、生産管理システム)

中小企業にとっても、柔軟な判断とスピード感のある行動が、
この不透明な時代を生き抜くカギとなります。

“価格ではなく価値で勝負する”。
その視点が、今後の経営判断を左右していくはずです。


【参考情報源】

  • 日本経済新聞「常石造船、生き残りへ海外シフト」(2026年1月)
  • 常石造船公式ウェブサイト
  • 海事プレス各種記事(2025年)

中小企業診断士として、現場で数多くの経営者と向き合うなかで、
常石造船の事例は非常に示唆に富んでいると感じました。

特に注目すべきは、「業界の大きな流れに必ずしも乗らない」という選択です。
今治造船グループによる業界再編が進む中、
常石造船は独自の道を歩んでいます。

これは、中小企業にとっても重要な示唆です。
自社の強みと市場ポジションを冷静に分析し、
「戦うべき土俵」を自ら選ぶ。

そして、選んだ土俵では徹底的に価値を磨く。
この姿勢こそが、これからの時代を生き抜く企業に求められるのではないでしょうか。

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